盤を取り上げて、今度は手に持ちたるまま妻の顔を見て、
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 先づここへ三と置くやろ、さうしてこちらへ十四とおいてと、エエ十四を三で除るとすると、――な、それな三一三十の一三進が一十、ソレ三二六十の二、三二六十の二でそれな……
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 ちよつと頭を掻きて、
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 除り切れんさかい都合が悪いけど、これでざつと四合六勺なんぼといふものやろ、
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 どうじやといはぬばかり手柄顔に、また妻の顔を見て、
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 それな、そこでコーツと一石を十二円の米として、
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とまたぱちぱち算盤と相談、
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 五銭六厘は違はうといふもんじや。ゑらいもんなあ。今は割木がたこ[#「たこ」に傍点]なつてるさかい、これで一束は買へまいけれど、まア一度分の焼《た》きものは、ざつとここから出やうといふもんじや。何となア怖いもんなア。
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 今は自分の得意のみにては飽き足らずや、妻よりも感歎の声を上げさせむと、しきりにその同意を促したれど、これはまたいかなる事ぞ、
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