鬼の女房に鬼神のなり損ねてや。この女房京女には似ず、先刻来の事にはいつさい無頓着にて腮《あご》を襟に埋めたまま何事をか他事を考へゐたり。
庄太郎はやや不満ならぬにあらねど、元来惚れたる妻なればや、我と我が機嫌をとり直してからからと笑ひ、妻の顔を下より覗くやうにして、
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アハ……これはまたちと御機嫌を損ねたかな。
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これには妻も何とかいうてくれさうなものと、しばしためらひゐたりしが、なほもかなたは無言なれば、また重ねかけて、
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何じやまた怒つたのか、何にもそないな怖い顔せいでもえいがな、お前はとかく私が勘定の話すると気に入らぬけれど、わしばかりの世帯ぢやないがな。この身代がようなれば、やはりお前もええといふもんぢや。――が今のはほんの物の道理をいうて見たのや、何もこれで雑用が減つたか減らぬか、それを月末に勘定してみやうといふではなし、ほんの話をして見ただけの事やさかい、万事その心得で居てさへ貰へばええといふこツちや。
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自ら詫びるやうな調子になりて、
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わしも今出
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