心の鬼
清水紫琴

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)五百機《いほはた》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)富有の名|遠近《おちこち》に

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]し、
−−

   上

 五百機《いほはた》立てて綾錦、織りてはおろす西陣の糸屋町といふに、親の代より仲買商手広く営みて、富有の名|遠近《おちこち》にかくれなき近江屋といふがあり。主人《あるじ》は庄太郎とて三十五六の男盛り、色こそは京男にありがちの蒼白過ぎたる方にあれ、眼鼻立ちも尋常に、都合能く配置されたれば、顔にもどこといふ難はなく、風体も町人としては上品に、天晴れ大家の旦那様やと、多くの男女に敬まはるる容子《ようす》なり。されどこの男生れつきてのしまりて[#「しまりて」に傍点]にて、稚《おさな》きより金の不自由は知らで育てし身が、何に感じてやらそれはそれは尋常ならぬ心得方、五厘の銅貨を二つに
次へ
全45ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
清水 紫琴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング