も三つにも割りて遣ひたしといふほどの心意気、溜めた上にも溜めて溜めて、さてその末は何とせむ了簡ぞ、そこは当人自身も知るまじけれど、ただ溜めたいが病にて、義理人情は弁《わきま》へず、金さへあればそれでよしと、当人はどこまでも済まし込めど、済まぬは人の口の端にて、吝嗇《けち》を生命の京|童《わらんべ》も、これには皆々舌を巻きて、近処の噂|喧《さかし》まし。中にもこれは庄太郎の親なる庄兵衛といふが、どこの馬の骨とも知れぬに、ある年江州より彷徨《さまよ》ひ来り、織屋へ奉公したるを手始めに、何をどうして溜めしやら、廿年ほどの内にメキメキと頭を擡《もた》げ出したる俄分限、生涯人らしきものの味知らで過ぎしその血の伝はりたる庄太郎、さてかくこそと近辺の、医師の書生の下せし診断、これも一ツの説なりとか。その由来はともかくも、現在の悪評かくれなければや、口入屋も近江屋と聞きては眉を顰め、ハテ誰をがなと考へ込むほどの難所、一季半季の山を越したる、奉公人はなしとかや。さればかかる大家に、年久しく仕ふるといふ番頭もなくその他はもちろん、新参の新参なる奉公人のみなれば、商業の取引打任すべきものはなし、地廻りのみは
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