ツちやがな、お前はいつも、わしがいひ付けといても、わしの留守には出て見てくれぬさかいいかん。これから行くと、なんぼ急いでも帰りは夕方になるやろさかい、昼飯はわしの留守に喰う事になる。さうすると皆ンなが、ここを先途と喰ふさかい、いつもいふ通りその時だけは台所へ出て、火鉢の傍で見張つててくれ。それも男の方はなるべくその顔を見ぬやうにして、手を見てゐればよい。それでも勘定は分るさかい、女子の方は構はせん、充分顔を見ててやれ。さうするとあんなもんでもちつとは遠慮して、四杯のとこは三杯で済ますといふもんぢや。男の方はしよこと[#「しよこと」に傍点]がない、手だけで勘忍してやるのやけどなハ……
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 高く笑ひてまた小声になり、
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 さうするとまア一人前に一杯づつは違てくるといふもんじや。一杯づつ違ふとして見ると、コーツとなんぼになる知らん。
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 首をひねりてちよつと考へ、
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 まア男が十人で女が三人そこへ丁稚の長吉やがな……
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 いひかけてまた考へ、ポンと膝を叩きて、
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