けど、さうなりましたらお暇を戴きませうに。
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とりとりに膝を進めて囁くを、お糸は力なき手に制して涙を呑み、
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なんのなんの女子の身は、たとへどんな事があらふとも、嫁入した先で死なねばならぬと、常にお母アさんがおつしやつてたし、またどのよな訳があつて帰つても、いんだト一生出戻りと人に謡はれ、肩身を狭めねばならぬさかひ、私はどこまでも辛抱するつもり、それでも同じ事なら、一日も早う死んだ方が。……
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と末の一句計らず、庄太郎漏れ聞きての驚き大方ならず、もともと可愛さのあまりに出たる事なれば、珍らしく医師をとまでは思ひ立ちたれど、これも年老いてかつは礼の張らぬ漢法医をと、撰りに撰りてやうやくに呼び迎へたるなれば、もとよりその効験《ききめ》とみに見ゆべくもあらず、お糸は日毎に衰へゆくを、さすがにあはれとは見ながらその老医さへ我が留守に来りたりと聞きては、庄太郎安からぬ事に思ひ、それとなくお糸にあたり[#「あたり」に傍点]散らす事もあり。罪なきお駒に言ひ含めて、医師の来りし時には、傍去らせず。お糸のいかなる顔をして、医師の何
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