て、叔父が帰りし後はまたジリジリと責めかけて、
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なぜお前は、日頃心易くもない叔父さんの許へ逃げて行く気になつたのじや。ただしおれの留守に叔父さんと心易くした事があつてか。
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さすがに再び手|暴《あら》き事はせねど、火の手は叔父の方へ移りて、夜一夜いぢり通されぬ。
下
この事ありてより後は庄太郎、仮初の外出にもお糸への注意いつそう厳しく、留守の間の男の来りし事はなきや、お糸宛の郵便どこよりも来らざりしやと、店の者に聞き下女に聞き、なほそれにても飽き足らず、大人はお糸に啗《くは》されて、我に偽る恐れありと、長吉お駒を無二の探偵として、すこし心を休めゐしに、あひにくにも一日《あるひ》の事、庄太郎の留守にお糸の里方より、車を以てのわざと使ひ、母親急病に罹りたれば、直ちにこの車にてとの事なり。お糸は日頃の夫の気質、親の病気とはいへ留守中に立ち出ては悪かりなむと、しばしはためらひゐたりしかど、待つほど夫の帰りは遅く、いかにしても堪へ難ければ、よし我上はともかくもならばなれ、親の死目に逢はぬ憾《うらみ》は、一生償ひ難からむと、日頃の温和
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