、さぞ叔父様のお骨の折れる事であろと、お糸は我が家ながら閾《しきゐ》も高くおづおづと伯父の背後《うしろ》に隠れゐたるに、案じるよりは生むが易く、庄太郎は前刻《せんこく》の気色どこへやら、身に覚えなきもののやうなる顔付にて、
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 これはこれは伯父様どうも夜中に恐れ入りまする、お糸のあはうめ[#「あはうめ」に傍点]が正直に、あんたとこまで行きましたか。ほんまに仕方のない奴でござりまする。ほんの一と口叱つただけの事で。
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 一言を労するにも及ばぬ仕儀に、叔父はそれ見た事かといはぬばかり、お糸の方を顧みて苦き笑ひを含みながら、
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 おおかたそんな事やろと思うたのやけど、お糸が泣いて頼むものやさかい、よんどころなくついて来たのじや。――がマア痴話もよい加減にして人にまで相伴させぬがよい。
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 日頃庄太郎の仕向けを、快からず思へるままに、少しは冷評をも加へて、苦々しげに立去りぬ。跡にはお糸叔父の手前は面目なけれど、まづ夫の機嫌思ひの外なりしを何よりの事と喜びしに、これはただ叔父の手前時の間の変相なりしと見え
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