には似ず、男々しくも思ひ定めて、夫への詫びはくれぐれも下女にいひのこし、心も空に飛行きぬ。その跡へ帰り来りたる庄太郎、お糸の見えぬに不審たてて、
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これお糸どうしたのじやどこに居るのじや、亭主の帰りを出迎へぬといふ不都合な事があるものか。
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見当り次第叱り付けむの権幕恐ろしく、三人の下女は互ひに相譲りたる末遂に年若なるが突き出されて、
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ヘイアノ先ほどお里からお迎ひが見えまして。
どこから迎へが来たツ。
お母アさんの御病気やとおつしやつて。
フム苦しい時には親を出せじや、親の病気が一番エエいひ草じや。それでお糸は出て行たのか。
ヘイお留守中で済みませんけれど、何分急病といふ事どすさかい、充分お断りをいふといてくれとおいひやして。
ソソンそれて何ぞ風ろ敷包でも持て行たか。
イイエ何にもツイお羽織だけを召しかへやして。
ハテナ。
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考ふる隙に、下女は龍の顎《あぎと》を逃れ出でたる心地、台所の方へ足早に下りつつ、三人一時に首を延ばして、主人の容子いかがとこはごはに窺ひゐる様子なり
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