旦那さん旦那さん。
[#ここで字下げ終わり]
 おづおづとして止めてゐたれど、庄太郎の暴力とても女の力に及ばざれば、側杖喰はむ恐ろしさに、下女等は店へ駈け付けて、若い者呼びさましたれど、これは日頃覚えあれば出も来ず、男の顔見せてはかへつて主人の機嫌損はむと、いづれも寐た振して起きも来ず。お糸も今はその身の危さに、前後を顧ふに遑《いとま》あらず、我を忘れて表の方に飛出したるを見て、庄太郎は我手づからくわんぬきを※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]し、
[#ここから1字下げ]
 誰でも彼でも、断りなしにお糸を内へ入れたものには、きつとそれだけの仕置をするぞ。
[#ここで字下げ終わり]
 わめき散らして立去りたる後は、家内|寂然《ひつそ》として物音もせず。多くの男女も日頃の主人の気質を知ればか、これも急に開けに来る様子はなきにぞ、お糸はしばし悄然として、その軒下に佇み居たりしが、折悪しくも巡行の査公、通りかかりてジロジロとその顔を眺め、幾度か角燈の火をこなたに向けて、ピカリピカリとお糸の姿を照らしながら過ぎゆくも心苦しく、自然咎められては恥の恥と、行くとも
前へ 次へ
全45ページ中25ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
清水 紫琴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング