打擲《ちやうちやく》しつ、
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お前のやうな不貞なものは、ちよつとも家に置く事は出来ぬ。たつた今出て行けツ。
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血相も変はりて、逆上したるらしき庄太郎、これもこなたの常なれど、不貞の名を負はされては、お糸も僻《くせ》と知りつつだまつてゐられず。一生懸命にて夫の拳の下を潜りながら、
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ど、どうぞその手紙を見ておくれやす。け、決して悪いつもりで隠したのではござりませぬ。あんまりあんたの、お疑ひが怖さに……
ナ何というた、おれが疑深ひ――おのれツ人にあくたい吐《つ》きおるな。
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怒りはますます急になり、今は太き火箸を手にしての乱打。
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サア出て行かぬか、何出る事は出来ぬ、出ぬとて出さずに置くものか。
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勢ひすさまじく飛びかかり、十畳の間をかなたこなたへ追ひ廻す騒ぎも、広き家とて、始めは台所のものも気付かざりしが、あまりの物音にやうやく駈け来りたる下女三人、
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マ……旦那さんお待ちやす、お糸さん早うお断りおいひやす、どうぞ
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