なれば、お糸は我知らず繰返して眺め居たるを、先刻より恐ろしき眼にてじろじろと見ゐたる庄太郎だしぬけに、
[#ここから1字下げ]
お糸それはどこからの手紙じや。
[#ここで字下げ終わり]
きのふ逢ひました人の妹よりといはむは、いとも易き事ながら、前夜より口を利かざりし人の、すさましく問ふ気色さへあるに、ふと今日の不機嫌もその人の事にはあらぬかと心付きては、何となく隠したる方安全らしく思はれもして、
[#ここから1字下げ]
ヘイ友達の処からの手紙でござりまする。
フム昨日の人の妹か。
いいえ。
[#ここで字下げ終わり]
つがひたる一矢は、はや先方の胸を刺したり、かかる事に注意深き庄太郎の、いかでかは昨日夏と聞きし名の、その封筒に記されたるを見|遁《のが》すべき。
[#ここから1字下げ]
フムそれに違ひないか。
ヘイほんまでござります。
[#ここで字下げ終わり]
勢ひ確答を与へざるを得ずなりしお糸、庄太郎はクワツと怒りて立上り、
[#ここから1字下げ]
おのれ夫に隠し立するなツ。
[#ここで字下げ終わり]
いふより早し肩先てうと蹴倒し、詫ぶる詞は耳にもかけず、力に任せて
前へ
次へ
全45ページ中23ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
清水 紫琴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング