申しまして失礼を致しました。わたしもただ今では糸屋町の、近江屋といふ家に居りますさかい、お夏さんにもちとお遊びにお出やすやうに。
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通り一遍の世辞をいひたるなれど、庄太郎は例の心より、たちまちこれが気にかかり。
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今の人はえらひええ男やな、お前心易いと見えるな。
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疑問の前触《まへぶれ》は早くも掲げられたれど、お糸は未だ心付かず。
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ヘイあのお方は、わたしの小学校へ行てました時分の友達の兄さんで、あの人もやつぱりおんなし学校へ行てはつたのどす。
フムそれだけか。
ヘイさうどす。
それにしてはお前の顔がをかしかつたぜ。それ位の事であんな赤い顔をしたのか、妙な笑ひやうをしてたやないか。
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あまりの事に、お糸も少しムツとして、
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別に赤い顔をしたという訳もおへんやないか、そらあんた誰でも女子といふものは、人にものをいふ時には、ちつとは笑顔をしていふものどすがな。別にあの人に限つて笑ろうたのやおへん。
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素気なくい
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