《しようばい》も営みかねるやうになりしかば、いくほどもなく家屋《いえ》土蔵《くら》をも人手に渡してその後は、小さき家に引移り、更に小商法《こあきない》を始めしかど、商人ながら相応の大家に生まれしお袖の父、万事万端応揚にて、さながら士族の商業も同様、損失のみ多ければ、遂に再びその店をも鎖す始末となりしなり。この際お袖の実母といふは、それこれの心労にて、不治の病を惹き起こし、帰らぬ旅へと赴きしかば、父は男の手一ツにお袖を育つることなれば、何かに付けて不自由ならむと、後妻《こうさい》を勧むる人あるを幸いに、お袖がてうど八ツの歳今の継母を迎へしなり。さるにこの継母といふは、お袖が家へ来るまでに、既に三|回《たび》も他へ嫁《かしづ》きて、いづれも不縁になりしといへば、ほんの出来合いの間に合はせものにてとうてい永持ちのせむやうはなし。さればお袖が家も、その頃既に逼塞せしとはいへ、古河に水絶へずとの譬喩《たとひ》に漏れず、なほいくばくかの資財あるを幸ひに、明日の暮しは覚束なくとも、今日の膳には佳肴を具へて、その日その日を送るをば、元来贅沢に成長せしものの僻《くせ》とて、お袖の父も別段意には介せず。夫
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