小むすめ
清水紫琴

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)凄《さび》しい

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)枕|上《もと》なる

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)思ふから※[#小書き片仮名ン、30−15]だ。
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 氷の塊かとも見ゆる冬の月は、キラキラとした凄《さび》しい顔を大空に見せてはをれど、人は皆夜寒に怖ぢてや、各家戸を閉ぢたれば、まだ宵ながら四辺寂として音もなし。さなきだに陰気なる家の、物淋しさはいや増しぬ。二分じんのランプ影暗く、障子の塵、畳の破れも、眼に立ちては見えねど、病みたる父の、肉落ち骨立ちてさながら、現世《このよ》の人とも思はれぬが、薄き蒲団に包まれて、壁に向ひ臥したる後姿のみは、ありありとして少女《おとめ》の胸を打ちぬ。父は病苦と夜寒とに、寐《いね》ても寐《ね》つかれずや、コホンコホンと咳《しはぶ》く声の、骨身に徹《こた》へてセツナそうなるにぞ、そのつど少女は、慌てて父が枕|上《もと》なる洗ひ洒しの布片《きれ》を
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