取りて父に与へ、赤きものの交りたる啖を拭はせて、またしよんぼりと坐りいぬ。
少女といふは年の頃十四五、勝れたる容姿《かたち》といふにはあらねど、優形《やさがた》にて色白く、黒色《くろめ》がちなる眼元愛らしければ、これに美しき服《きぬ》着せたらんには、天晴れ一個の、可憐嬢とも見ゆるならむが、身装《みなり》のあまりに見苦しきと、水仕の業を執ればにや、手の指赤く膨らみて、硬太りに太りたる二つ、小奇麗なる顔に似合はしからぬやうにて、何となく憐れ気なり。淋しさと心細さは、四辺よりこの少女を襲へばや、少女は何をか思ひ出して、しくしくと泣きゐたり。
お袖お袖と力なき呼声は、覚束なくもこの寂寞を破りて、蒲団の内より漏れ出ぬ。お袖はハツと父の方を見遣れば、父はかなたを向きたるまま「おッ母《か》さんはどこかへ行つたかい」「ハイ先刻《さつき》差配のおばさんの許まで行つて来るといふて」「フムまた出歩行《であるき》か、ああ困つたもんだ。己れが床《ね》てゐることも、お前がそうして苦労するのも、気にならないのかネー、モーかれこれ九時にもなるだらふ、ちよつと行つて呼んでお出で」お袖はハイと応答《いらえ》しが、母が
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