そうすると人にかれこれいはれる事もなし、お父さんにイヤに気を廻させる事もないんだけれど、それでは今もいふ通り、お前の為にならナイからだ。それやこれやのおッ母さんの気苦労は思はないで、おッ母さんを悪くいふとは、ほんとうに親の心子知らずとはこの事だよ。何だとへ、私は何もいはないと。言はないものがナゼ人が知つてます。お前が何もいはないに、誰がそんな事にまで、世話を焼くものがあるもんかネ。ヘン、いくらおッ母さんがお心善しだつて、あんまり馬鹿におしでないよ。言つたら言つたでいいから、おッ母さんもこれからそのつもりにするばかりの事だ。エ、何だとへ、怒られちやア困るとへ、困るならナゼ怒られるやうな蔭口をきくんだネー」と並べ立てたる百千言、詞は巧みに飾れども、飾りきられぬ行ひは、近所の人の眼に触れて、お袖は何も言はずとも、噂さるるは我と我が、身の行ひにありぞとも、心付かでや一筋に、お袖が継子根性から人に告げ口せしものと、思ひ僻めて胸安からず、なほも詞を継がむとす。
 いつの程にか目覚めけむ、父は何をか言ひ出でむとして、コホンコホンと咳き入りぬ。継母はジロリそなたを見遣りたるまま、わづかに口を噤みぬ。お
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