母に代はりて世帯の苦労を、させらるる故と知られたり。
 母は巨燵へあたりながら、ランプの火にて一二服煙草を吸ひじれつたそうにポンポンと灰吹を叩き「お袖ちよいとここへおいで、お前に聞きたい事がある。何かいお前は隣の花ちやんか誰かに、おッ母さんの事を悪く言つて聞かせた覚へがあるだらふ」「何をつて、おッ母さんがお前をひどくするツてサ」思ひ掛けなき問にお袖は眼を見張りて母の顔を打守り、「イイエおッ母さん、誰がそんな事をいふもんかね。私は何もおッ母さんの事を」「ソリやァあるとはいはれまい。けれど今夜差配の女房《おかみ》さんに聞きやァ、何でも私が大変に継子イヂメでもするやうに、近所で噂をしてゐるとサ。大方お前が花ちやんか誰かに云ひ告けたのだらふ」「イイエ何もいやアしない」「でも差配の女房さんが、こういふ事をいつたよ。お前さんは真実《ほんとう》にお仕合《しあわ》せだ、お袖さんが何もかもおしだからといふから。ナゼそんな事をと聞ひて見ると、隣の花ちやんがいつてたそうだ。お隣では、おッ母さんは何もしないで、お袖さんばかりが家の事や、お父さんの介抱をしてゐて、ほんとにお袖さんはかわいそふだとよ。何かいおッ母
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