はらせやうと思つてよ」「それなればなほの事、私はちつとも睡《ねむ》くはないから。お父さん気を揉まないでおくれ。それよりはおッ母さんの帰るまで、背など摩擦《さす》つて上げやう」と、小さき手にて身一ツに父の看護を引受けつ。別段辛い顔もせぬ、娘の心の優しさに、父の心も和らぎけむ、摩擦られながら、うとうとと寝《まどろ》みかかりぬ。
お袖今帰つたよ、表の戸鎖《とじま》りをしておくれ。何だネー霄《よひ》の内からこの暗さは、「オヤおッ母さんお帰り、何ネおッ母さんはをらぬし、お父さんも寐たから、それで贅費《むだ》だと思つてランプの芯を引込めて置いたんだアネ。ハア巨燵《こたつ》――巨燵はとうに拵へて、今しがたおッ母さんの寝衣《ねまき》も掛けて置いたよ。アノネおッ母さん、晩方買つて来た炭団は大変に損だよ。小さくつて柔らかで、今巨燵を明けて見たらもうちやんと、半分から灰になつてるんだもの、同じ一銭に八つんなら、先の方がよつぽど得だよ。今度から先の家へ行つて買つて来ようネー」といかに貧しく暮せばとて、十四や十五の小娘の、口から出やう詞《ことば》とも、思はれぬほど気のつくは、これも平素《つね》からとやかくと、
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