をかけ、力を極めてこなた向かせむと力《つと》めながらさも口惜しさうに、
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何だとえ、も一度いつて御覧、いくらお前でも、よもや二度とはいはれやアしまい。お前その一食が私を泣かせる原因《もと》なんぢやアないか。お前が三度三度に御飯でさへお腹をふくらしておくれなら、こんな思ひはしやアしないわね。お米よりきやアお米の水の方が、いくら高値《たか》くつくか知れやアしない、よくもそれを自慢らしくいへたもんだ。お前は一食でも二食でも、それはお前の好きでするんだ。私と松は明日からどうしておくれだえ。ハツキリと聞かしておくれ。私もお前の返答によつちやア、きつと思案を極めなくツちやアならないから。
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いかにもして夫の睡りを醒まさせむと、いよいよ押さへし手に力を入れて、その肩をゆり動かすにぞ、さすがは男の我を悪しとは知りながら、
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うるせへえや。ふざけた真似をしやアがるな。
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大喝一声やにはに起き上りて、女房の横腹を丁と蹴り上げ、おのれはそのまま子供に掛けたる古袷の袖引き攫《つか》みて、肥大なる身をその脇に横た
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