お前ひどいぢやないか。私や松を女房子とお思ひではないかえ。
[#ここで字下げ終わり]
いひかけて傍に寐させし子の、十歳《とお》には小さきが寒さうに、母親の古袷一ツに包まれたる寝姿を見て、急にホロリとなり、
[#ここから1字下げ]
これ御覧お前、たつた一枚の蒲団までも曲げてしまつた位なのだから、もうどうするものもありやアしないわね。だからお前二人ともまだ朝飯を喰べたきりぢやアないかよ。それに今頃文なしで帰るなんざア、そりやアお前人間に出来る仕事なのかえ。私やアまだしも、これを可愛いとお思ひではないのかえエ、これお前、亀さん、亀さんツたら、お前はこれを見殺しにする気なのかえ。
[#ここで字下げ終わり]
前刻より妻の小言を添乳に、うとりうとりと眠りゐし夫、ここに至りてブルリと身を顫はせ、
[#ここから1字下げ]
ああ寒いや。
[#ここで字下げ終わり]
とクルリあなたへ寝返りうち、
[#ここから1字下げ]
チヨツやかましいなアいまさらいつたつてどうなるもんかい。たいていにして寝ろい。己れなんざアいつも一|食《じき》だア。
[#ここで字下げ終わり]
女房はいとどぢれ込みて、夫の肩へ手
前へ
次へ
全21ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
清水 紫琴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング