ねえ。
何だとえ、知れた事だツて。エあンまり馬鹿におしでない。どこの世界に、今まで仕事させとく親方があるもんかね。おおかたまた、どこかで飲んでたんだらう。
だから知れ事だと、いふ事よ。
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女房は口惜しさうに夫の顔を見て、鋭き眼を涙に曇らせ、
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よくまアそんな事がいへたもんだね、あンまりで私やアものもいへやアしない。――ようつもつても御覧、お前の飲んだくれも久しいもんだが、お前は何かえ、この間中私と松とは、どうして過ごしてるとお思ひなのだエ。私が少しずつでも銭儲けする間は、そりやアどうにかかうにかして、母子《ふたり》がお粥でも啜つてるんだ。だがこの節は私の内職も隙《ひま》だから、ちつともお金の工面は出来やアしないし、それに相変はらずお前は飲み歩行《あるい》てばかしゐて、ちつとも家へお金を入れておくれでないから、私やアこの十日ばかりは、御飯《ごぜん》も喰べたり喰べずぢやないか。それをいやほど知つてる癖に、なぜ少しでも持つて帰つておくれでないのだえ。あれ程お前朝頼んどいたぢやないか、それにいつも同じ気で、今までよそで飲んでるなんざアあまり
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