奥様に、たんとお礼を申し上げないでは済まないよ。奥様がこの夥しいお金を、お前にお恵み下さるんだから。落とさないやうに持つてお帰り。さうすればちやんも怒らなからうし、また一月や二月は、お父ちやんもお前も、これで楽々と御飯が戴けるんだから。きつと落とさないやうに気を注けるんだよ。奥様も今ではここにいらつしやるけれど、やはりお家は大坂なんだから……
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といひかかるを、奥様目顔で制したまへば、老女は本意なげに口を鉗《つぐ》みたれどさすがに老の繰言止め難くや、更に詞を更《あらた》めて、
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時節が来たらお前のおツかアも、おつつけお暇が出やうから、その時はまた明石へ帰らないものともいへないわね。どうせ茶屋小屋に居た女が、いつまでも御大家に居て、奥様を蔑《ないがしろ》にしてゐる訳にもゆくまいから。ね、だからもしひよつと、この後お前おツかアに逢ふ事があつたら、忘れないでいふんだよ。何時《いつ》何日《いつか》頃舞子へおつまといふ婆がお附き申して、御養生にいらツしつた、それはそれはお前よりはよツぽど美しい奥様の、お救ひを戴いたといふ事をね。きつと忘れないで話す
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