てるちやんを、どうする事も出来ねえから。おらアはやく大きくなりてえや。
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かかる折には他人ながらも、その人たのもしく思はれてや、彼はまた老女の顔を覗き込みて、
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ネ伯母さん、家へ帰つても、ちやんは怒りやアしめえか、何ともいはないで来たんだから。エ、エ、……
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しばしば問へど、老女はとかく奥様の、お顔色のみ窺ひて、とみには慰めかねたるを、もどかしとや奥様の自ら進み出でたまひて、勿躰なや美しき手にも汚き子供の頭撫でたまひ、
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お案じでない、今私がいいやうにしてあげるから。
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老女に何か囁きたまへば、老女は心得て若き婢を招き、仰せを伝へたりと覚しく、彼は小走りしていづかたへか行きたるが、やがて小《ささ》やかなる革提《かばん》携へ来りしを、奥様は力なき手にそれを開き、中より幾片かの紙幣《さつ》とり出でて老女に渡したまひしかば、老女は万事その意を得て、これを子供の肌へ、落ちぬやうに手拭もて括り付けながら、
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ほんとにお前は仕合せものだよ。お慈悲深い
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