といふの。
 おおあツかアはお千代て云ふんだ、おらア松坊サ。
 家はどこだえ。
 明石なんだ。
[#ここで字下げ終わり]
 オヤと老女振向きて、そと奥様のお顔色を窺ひしに、奥様は色も変はらせたまはねど、老の僻目か、御目の底少しきらめきし様にも覚えて、よしなき事を聞き出せし何となく心安からぬに、子供は何の心もつかず。またも無邪気に老女を顔を見上げながら、
[#ここから1字下げ]
 なぜおツかアは大坂へなぞ行つたんだらう。大坂はよツぽど遠ーい処ぢやアねえか、なア伯母さん。だからおらア何しに行つたんだと聞くと、茶屋の奴め大変に笑やアがつて、知れた事だツて、教へてくれねえんだ。だつて伯母さん、誰だつても聞かなきやア分らないぢやないか。でもおらアあンまりいまいましいから、それツきり飛び出したんだ。で早く帰らうと思つてここまでせつせつと歩行て来たんだけれど、あんまり足が痛くなつたから、少し休んでる内に日が暮れかかつて来て、ああ淋しいなと思ふと、またおツかアに逢ひたくなつたのだ。だから今泣いてたんだよ。どうしやうねえ伯母さん、おツかアはもう帰らないんだらうか。おツかアが帰らなきやア、おらア一人で煩つ
前へ 次へ
全21ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
清水 紫琴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング