たのかえ、よくまア独りで行かれたね、可愛さうに。
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と老女目をしばたたきて更に奥様の方に向ひ小腰を屈《かが》めて、
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何でございますとね、これが独りで須磨まで参つたのでござりますと。
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奥様も聞きゐたまふことを改めて伝達するも、あまりの事に感心してなるべし。奥様もしばしばうなづきたまひ、始めて優しきお声にて、
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さう、そして分つたかえ。
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老女に聞くともなく、かの子に聞かずとしもなく問ひたまへば、
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ああ分つたよ、分つた事は分つたんだけれど……
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大粒の涙をポトリポトリと落としながら、
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おツかアは疾《と》くに大坂へ行ツちまつたとさ、何でも大坂から養生に来てた、金持の旦那に連れられて、行つたんだと。
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この一句に老女は端なくも奥様と顔見合はせて胸轟かせつつ、忙《せは》しく子供に向ひ、
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フム不思議な事もあるものだね、ではお前のおツかアの名は何
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