んだよ。それがお前、奥様への何よりの御恩報じなのだよ。
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子供ながらも、あまりに人の情の訝しく、奥様と老女の顔をのみながめゐるを、これも奥様のお心添にて、途中心もとなしとや、宿やの車にて送らせたまひぬ。
その後五六日を経て明石の町より、天ぷら蒲鉾など小さき荷籠に入れて、舞子のあたりまで売り歩行《ある》く子供あり。雨の朝も風の夕べも、この子の呼声聞こえぬ事なければ、人々の殊勝がりて、年もゆかぬにと、その身の上尋ぬれば、
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おらアおつかアは居ないんだけれど、よその美しい奥様に、たアんとお金を貰つたから、それでかうして稼げるやうになつたんだ。ちやんも塩梅が直つたら、お酒も飲まないで稼ぐといつてるから、おらの許《とこ》は、今に金持になつてみせらア。金持にせへなりやア、おツかアはどんな遠い処に居たつても、帰つて来るんだとちやんがいつてるよ。だからおらア何でも稼いで金持にならなきアならないんだ。
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威勢よく答ふるに評判売れて、今もそのあたりに肴屋の松坊松坊とてもてはやさるるはこの児なりとか。されどかの病みて美しき奥様と
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