袖にははらはらと玉散りて、お顔を背けたまふかなたの木影に、しよんぼりと立ちし男の子、田舎にも珍しきまでむさげなるが、これもしくしく泣きゐる様子に、奥様は我を忘れて、いぢらしがりたまひ、
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ばアや、何だらうあの子供は、可愛さうに泣いてるぢやアないか。聞いて御覧、連れにでもはぐれたんぢやアないか。
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老女も御機嫌損ねたる末のよきつき穂と、
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オヤさやうでございますねー。承つてみませう、どう致したのでございますか。
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いひながらかの子の傍へ立寄りて、優しく問ひ掛けしに、子供心にも人の深切身にしみじみと嬉しくてや、忍び泣きの急に切迫して、泣きしやくり上げながらのとぎれとぎれ、
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ああおらアおツ母アを探しに、須磨まで行つて来たんだ。ちやんがお酒ばかし飲んで、構はないもんだから、おツ母アは去年の暮にどこかへ行つてしまつたんだ。
ヲヤお前のやうな可愛い子を置いてかえ。
ああだからおらアそれから毎日おツ母アを探してたんだ。それでもまるツきり知れないから、おらアいくらちやんに、
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