ござりまするが、命あつての物種と申すではござりませぬか。何が何でいらつしやいませうとも、御身躰が一番お大事でござりまする。必ず必ずきなきな思し召してはなりませぬ。
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 いひかけて四辺《あたり》に気を配り、若き婢《おんな》の三四間後れたるに心を許し、
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 何のあなた、旦那様だと申し上げましても、いついつまでもああではいらつしやいますまいー。ほんの一時のお物好きであそばすのでございませうから、あんなもの位にお気をおひけあそばさないで、何でも早く若様でもお嬢様でもお設けあそばすやう、一日も早くお達者におなり遊ばせな。オホホホホそれが何よりのお勝でござりまする。
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とはいかなる子細ありてやらむ。奥様はいとどこれにむつがらせたまひて、血の気とてはなき唇を噛みしめたまひ、
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 またばアやはそんな気休めばかしいふよ。人を、人をツいつまでも子供のやうに思つて、賺《たら》さうとしてももうだめよ。それよりか一所に泣いてくれた方が、いくら力になるか知れやアしないわ。
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 露かあらぬか、奥様のお
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