た事と、真面目《まじめ》に働くがいやになつた事と、この世には望みもなければ、楽しみといふものの光明も認められぬやうになつた事など、落ちも無く銀に語つて聞かされたのである。で、聞く一言一言が、渠女《かれ》の身に取ると、胸に釘を打たるる思ひ。その場へ昏倒するのではないかと思はれた事も幾度かであつた。渠女《かれ》は始終、涙と太息《ためいき》とで聞いてしまつて、さて心の糸のもつれもつれて、なつかしさと切なさとに胸裡は張り裂けんばかり、銀が今の身の上|最愛《いとし》と思ひつめては、ほとんど前後不覚。よし自分の身辺にまつはる事情や行懸りをうつちやつても……。我が身を引ン裂いてなりと、まのあたり銀が餓えと恥辱に呵責《さいな》まるる苦痛をすくはうと煩悶した。あせつたのである。身|※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]《あが》りしたのである。けれども、女の身の格別好いちえも分別も出なかつた。
そこで女は、とやかう思案を煎じつめた挙句、「ままよ」とつぶやいたかと思ふと、さきにその所夫《おつと》から預けられて、問屋場へ持つて行くべき、少なからぬ、なにがしといふ金を懐中《ふところ》から取り出した。包
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