も根性もだツ、立派に腐つた……。しびれきつてしまつたてえ事ッ。碌でなしだからな」
空を仰いで虹のやうな息を吐く。
「しようがないね」と、のみ、女はさらに愁然《しゆうねん》として、「お前さんは、そんなにおこつておいでだし、あたしアやる瀬がありやしない」
と、いつか、両袖で顔を隠してしまつた。あはれその心の底は、いかに激しく悶えるのであらう。肩頭《かたさき》よりかすかに顫《ふる》へた。
しばらく経つてから、「お前そういつておいでだけども、ねえ、銀さん、何も時と時節だわね。そう一|酷《こく》にさ、いや忌々しいの、腹が立つのといつていたんじや、一日だつて世の中に生きていられはしないよ、世の中が思つたり適つたりで暮らせる位なら、人間にア涙なんてえものァいらないものさ。それがある点《とこ》がうき世をいつたものじやないの。そりや銀さんは、あたしを不人情者とも、不貞腐《ふてくさ》れとも思つておいでだろう。もとよりあたしが非《わる》いんさ。非いにァちがいないけども、底には底のあるものだよ」
と女はしみじみと語り出した。
渠女《かれ》は、銀が三年|以来《このかた》の惨澹たる経歴と、大酒飲みになつ
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