られる、お前の為を思へばこそ。しかし大きに、大世話か知らぬ。さういふ事なら、頼んでまでも、証拠に立たせて、くれとはいはぬ。お前の心任せさ』と。妙にもたせ掛けられては、お園もさすが沈黙つて居られず。気味悪けれど、当座の凌ぎ、頼んでみむと、心を定め『さういふ事でござんしたか。さうとは知らず、ついうつかり前刻《さつき》のやうなこと言ふたは、みんな私が悪かつた。堪忍して下せんせ。知つての通りの私の身体、身寄りといふては、外になし。やうやくこの邸の旦那様が、乳兄妹といふ御縁にて。この春母さんが亡くなる時、頼《ねが》ふて置いて下さんした。そればつかりで、この様に、御厄介になつてをりまするなれば。さうでなうても術ない訳を、この中からの私が術なさ。一季半季の奉公なら、お暇《いとま》を願ふ法もあれ。そんな事から、お邸を出されうものなら、それこそは、草葉の影の母さんに、何といひ訳立つものぞ、死んでも済まぬ、この身体と思案に、あぐんだ、その果ては、つい気が立つて、あんな言《こと》。憎い女子と怒りもせず、よういふて下さんした。そんなら吉さん、今日のところは、証拠に立つて、おくれかえ』と。頼むは、もとより思ふ坪
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