つては、どんな騒ぎが、出やうも知れぬ。その代はりにはまたこの瀬戸を、甘《うま》く平らに超えさへすれば、この間からの波風も、ちつと静かにならふといふもの。悪い事はいはないから、今日はよほど気を注けな』と。善か悪か、底意は知らず。ともかく同情ありげなる、詞にお園も釣出され『それはさうでござんする』『が詮方がないから、沈黙つてゐるといふんかい。それでは己れが、註を入れて見やうか』と。いよいよ前へ乗出して『一体全体奥様の、今日の外出が、奇体じやないか。いつもは旦那と御一所か、さなくば朝を早く出て、退庁前には帰るのが、尻に敷くには似合はない、お定まりの寸法だに。今日に限つて、出時も昼后、供は一婢《ひとり》を、二婢《ふたり》にして、この間の今日の日に、お前ばかしを残すのは、よほど凄い思わくが、なくては、出来ぬ仕事じやないか。これは、てつきり、お前と旦那を、さし向ひにしたところへ、ぬつと帰つて、ものいひを付けるつもりと睨んだから、ここは一番男になつてと。頼まれもせぬ、心中立て。無理さへすりやあ、行かれる身体を。まだ歩行《ある》かれぬと断つて、今日一日を、当病の、数に入れたは、誰の為。みすみす災難着せ
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