したゆく水
清水紫琴

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)截立《きりたて》の

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)御|縺《もつ》れでは、

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「敖/心」、170−6]《あせ》れど。
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   第一回

 本郷西片町の何番地とやらむ。同じやうなる生垣建続きたる中に、別ても眼立つ一搆え。深井澄と掲げたる表札の文字こそ、さして世に公ならね。庭の木石、書斎の好み、借家でない事は、一眼で分る、立派なお住居。旦那様は、稚きより、御養子の、お里方は疾くに没落。なにかにつけて、奥様の親御には、一方ならぬ、御恩受けさせたまひしとて。お家では一目も二目も置きたまへど。敷居一ツ外では、裸体にしても、百円がものはある学士様。さる御役所へお勤めも、それはほんのお気晴らしとやら。否と仰せられても、這入つてくる、公債の利子、株券の配当。先代よりお譲受けの、それだけにても、このせち辛き世を、寝て暮さるるといふ、結搆な御身分、あるに
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