と、吉蔵、ほくほくうなづきて『それはいふだけ野暮の事。お前がさういふ了簡なら、己れもしつかり腰を据え、一番肩を入れてもみやう。それには、何の造作もない事、己れが腹にある事なれど。いよいよさうと極めるには、ちつと掛合ふ事がある』と。わざわざ立つて、水口の、障子をぴつしやり、しめ来り、極めての小声には『実お前だから、いふんだが。己れはこれまで、奥様の、探偵《いぬ》といふ訳で、三年以来、別段の、手当を貰ふてゐるのだから、今日とてもその通り。己れから証拠を、名乗つて出ずとも、直ぐ、どうだつたと、聞かれるに違ひはない。そこでもつて、ある事にせよ、ないにせよ。あの奥様の、探つてゐる腹へ、はまるやうにいひさへすれば。それはよく知らしたと、まあ、どつさり、御褒美に、有付けやうといふもんだ。それにどうだ。いや、さういふ容子は少しもござりませぬ。それは全くあなた様の、思し召し違ひでと、いつた日には、どうだらふ。安心しさうなものだが、さうはゆかぬ。直ぐ己れが、抱き込まれたであるまいかと、気が廻るのはお定まり。どこのだつても嫉妬家《やきもちや》といふものは、たいがいさうしたものだわな。焚付けて、焼かせる奴を、
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