欺き、助三に、与へるものと偽つて、取出したるものぞとは、神ならぬ身の、お園は知らず。よもやと思へど、その事の、ないには限らぬ奥様の、気質はかねて知る上に。動かぬ証拠、もしひよつと。ても恐ろしの奥様と、身顫ひする顔。よいつけ目ぞと吉蔵が『何と違ひはなからふが。ところでお前はどうするつもり。さつぱり旦那と手を切らずば、ここで己れが見遁しても。どこぞで探し当てられて、執念深い奥様に、殺されるのは知れた事。それよりは、今の間に、逃げて助かる分別なら、及ばずながら、この己れが、引請けて世話しやう。憚りながら、かう見えても、仲間で兄いと立てられる、男一匹、何人前。梶棒とつては、気が利ねど、偶《てう》と半との、賽の目の、運が向いたら、一夜の隙に、お絹布《かいこ》着せて、奥様に、劣らぬ生活《くらし》させてみる。えお園さん、どうしたもの。沈黙《だま》つてゐるは死にたいか。それとも己れに依頼《たよ》つてみるか。了簡聞かふ』と詰掛くるに。さてはさうした下心。弱味を見せるところでないと。早速の思案、さりげなく『それはそれは、いつもながら、御深切は嬉しう受けておきまする。したが吉蔵さん、私がかうして、旦那のお世
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