を、お前が巧手《たくみ》に取込んで。お園を殺すと威赫《おど》させたら、お園が退かふといふのかえ』『もし奥様、お声が高うござりまする。お竹もどふやら帰つた様子。ここ四五日に埓明けずば、こちらが先に破れませう』と。悪の上塗、塗骨の、障子を開けて、こつそりと。庭から長屋へ、下がつて行く。悪事は千里、似た事は、まこと、ありしの噂となりて。明日は婢が口の端を。御門の外へ走りしなるべし。

   第八回

 はいお頼み申しやす。この家に、お園さんと仰しやる[#「仰しやる」は底本では「しや仰る」]がお出での筈。私は深井の旦那から頼まれて、内証の御用に参つたもの。御取次下されませと。心得顔におとのふを。太田の下女が、うつかりと。はいはいさうでござんすか。あすこにお出でなされますると。お園が住居の裏口を、教ゆるままに、しめたりと、跡を、ぴつしやり、さし覗く。障子の影に、お園が一人、もの思ひやら、うつむいた、外には誰も居ぬ様子。ちやうどよかつた、はいこれは、お久し振りでと入来る。顔を見るより、ぎよつとして、逃げむとするを、どつこいと、走り上がつて、袂を捉え『これお園さん、どうしたもの。この吉蔵を、いつまで
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