けまい。替はりを拵え、公然《おもてむき》、暇とるまでは、奥様の肝癪玉を、正月の、餅花位に思ふてゐよう。それにしても、吉蔵だけは、よい事をしやるじやないか。この四五日は、あの人の、工面も、ずんと、よい様子。財布も、ちやらちやらいふてゐる。何でもあの晩、奥様の、癪は、男に限つたさうな。女子は、叱られ、遠ざけられ、吉蔵ばかりがお傍に居たが、可恠なものじやないかいな。按摩ばかりの駄賃じやあるまい。お梅の怒つて、暇とりやるも、これには無理のないだけが、笑止でならぬと。思はずも、笑ひさざめく女部屋。ゑゑ、またしても騒々しい。何がをかしふて笑やるぞ。お梅は親の病気といふたに、まだぐずぐずとして居やるか。松はいつもの仕立屋へ、仕立を急きにといふたのを、もう忘れての冗談か。竹は私が頭痛の薬、今も頭《つむり》が破れさうなに、お医師者様で貰ふて来や。どれもこれも、一人として、私の身になるものはない。旦那のお留守は、女子の主と、侮る顔が見えてゐる、忙しい時には、忙しいやうに、ちつとは、いふ事聞いたがよいと。何やら分らぬ腹立声を、銘々の頭に冠せて、出したる、後は巨燵にあたるより、あたりやうなき、部屋の内。じたい
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