て、堪らえて居たりや。よい事にして大眼玉。着物が大事か、主人が大事か、何まごまごと叱られては、もう神様が対手じやない。堪忍ならぬも私が無理か。まだその上にこの頃は、吉蔵さんが、こそこそと、お部屋へ忍んで行く様子。どうでもこれは、奥様と、事情《わけ》が出来たであるまいの。標致《きりやう》は、どうでも、金づくなら、私が負けるに、極まつた。とても叶はぬ恋故に、辛抱するでもあるまいと、思ひ切つての拵らえ事。親を遣ふて、あれほどの、奥様、うむと、いはた今日、始めて親の有難さが、身にしみじみと分つて来た。お前方も親御があらば、たんと遣ふて暇とりやと。年甲斐もない、頬赤の詞に。白い反歯がさし出口。ほほほほ何の事かと思ふたら、またあの時の復習《おさらひ》かえ。お前のやうに、足引のと、長たらしういひ出しては、私等もいふ事、山ほどあれど。いはぬに極めて、近々に、暇を取らふと思ふたに、魁《さきがけ》られた上からは、親の病気の古手も出せまい。いつその腐れ、逃げやうか。それもなるまい、荷物がある。あのお園さん見るやうに、抑えられては、こちや困る。なふお松さん、そでないか。さうともさうとも三人が、三人までも出て行
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