まり悪《にく》いお邸で、年を越すでもなからふと、内証極めた前刻《さつき》の使ひ。忙《せは》しい時に暇取つて、お前方へは気の毒ながら、無理のない訳聞かしやんせ。この四五日の奥様の、あの肝癪は正気の沙汰か。お肝高いは、日頃から、知れてもをれど。なんぼうでも、堪らえられぬは、この間、旦那が泊つてござつた朝。いつもの時刻と、御寝所の、雨戸を私が明け掛けたら。お前も旦那に一味して、寝さすまいの算段か。昨宵《ゆうべ》一夜は、まんじりと、寝ぬのは知れたに、がたびしと、その開け方の訳聞かふ。やつとの事で、とろとろと、今がた寝かけた眼が醒めた。これでは今日も、一日頭痛。まどしやまどしやの、難題も、それだけならば済ましもせう。まだその後で、手水の湯が、温《ぬる》いの熱いの、大小言。かなぎり声で、金盥。替えて来やれと、突出したが、私の着ものに、ざんぶりと。濡れは、濡れでも、あんな濡れ。こちや、神様に頼みはせぬ。吉蔵さんとは、正直が、濡れて見たいの願ひ立に。お薩芋《さつ》を一生断ちますると、頼んでおいたが。なんぼうでも、験が見えぬに、ほつとして。あの前の晩、ほこほこを、喰べて退けたが、出雲へ知れた、罰かと思ふ
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