の上を思ひ続けて、泣いてもゐやう。乃公を力と頼んでも、滅多に訪ふてやられぬ身体。かういふ時に廻つて行かば、宅へも知れず、都合であれど。深夜に行かば、太田の手前。それは脇から這入るとしても、お園のおもわく何とであろ。いやいやかれに限つては、乃公を真底主人ぞと、崇《あが》むればこそ、勝気のかれが、もの数さへにいひかねて、扣《ひか》え目がちの、涙多。ああいふ女子でない筈が、ああなるほどの憐れさを、知りつつ捨てては置かれまい。やはりちよつと尋ねてやろか。たしかこの辻、この曲り、この用水が目標と。幌の中よりさし覗く、気勢に車夫が早合点。こちら様でござりまするか、それではお灯を見せませうと、頼みもせぬに、提燈持ち。案内顔の殊勝さを。無益《むだ》にさすのも不憫とは、どこから出し算用ぞや、ふと決断の蟇口開けて、そをら遣らふと、大まかに、掴み出したる銀《しろがね》は、なんぼ雪でも多過ぎまする。お狐様じやござりませぬか。人間様では合点がゆかぬ、夥しいこのおたから。せめて孫めに見せるまで、消えてくれなと、水涕を、垂らして見ては、押し戴き、戴いてゐるその隙に。澄が影は、横町へ、折れて、隠れて、ほとほとと、板戸
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