が、真人間であるならば。たとひ始めは従妹の義理で、夫婦にされた中にもせよ。一度縁を結んだからは、見ん事末まで添遂げて、女子の道を立てふもの。あれほどまでの放埓を、私は因果とあきらめても。可愛や親の鑒識《めがね》違ひで、いかい苦労をさす事よと。父様なければ、母さんが、お一人してのお気苦労、せめて私が息ある内にと、取つて渡して下されし、三行半《みくだりはん》も、親の慈悲。まだそれだけでは安心がと、世に頼もしい旦那様に、お願ひ申して下さんしたに。やれ嬉しやとその後は、一生お仕え申す気で、お主大事と勤める内にも。あんまりな、奥様のお我儘。上を見習ふ下にまで、旦那様の御用といへば、跡へ廻してよいものと、疎畧にするのが面憎さ。要らざるところへ張持つて、旦那の御用に気を注けたが、思へばこの身の誤りにて、思はぬ外のお疑ひ、忠義が不義の名に堕ちたも。奥様ばかりが悪うはない。どの道悲しい目に逢ふが、どふやらこの身の運さうな。それを思へばこの後とも、よしんば、生きてみた処で、苦は色かゆる、いろいろの、涙を泣いて見るばかり。泣きに生まれた身体と思へば、死ぬるに何の造作はない。やはり死んで退けやうか。いやいやい
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