つたからは、生存《いきなが》らえて、何楽しみ。一時も早う、死んで苦患《くげん》が助かりたい。そこ離しや、ゑゑ離さぬか』と、半狂乱の、力任せに振切りて。部屋に続きし、奥倉庫《おくぐら》の、戸を引開けて、中から、ぴつしやり。押せども突けども、開かばこそ。泣くも詑ぶるも、一人芸。ひそみ返りて音もせぬ、あまりの事の気遣はしさ。お園も思案の帯引締め『それでは奥様私は、これでお暇致しまする。私さへに居りませずば、御自害沙汰には及ばぬ事。必ず必ず御短気な事、あそばして下さりまするな。お詑はあの世で致しまする。御機嫌さまで』といひ捨てて、裾もほらほら、気もはらはら、身を飜して走り行く。様子を見済まし、倉庫の戸を、そつと引開け、立出る、鹿子の前へ吉蔵が、急ぎ足に入来り『存分甘く行きまして、お目出たう存じまする』『それはよけれど、もし死んだら、それこそ思はぬ一大事』『そこに、ぬかりはござりませぬ。たしかに左へまだ半町、跡を※[#「足へん+從のつくり」、180−11]けて見届けませう』『必ず共に死なさぬやう』『その御念には及びませぬ。拝領ものを亡くしては、第一私損分』と。鼻|蠢《うごめ》かせて、裾端折り、し
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