ちへとお園を呼びて、尋常《よのつね》ならぬ涙声『私は折入つて、お前に頼みたい事がある。何と聞いておくれかえ。知つての通りの私の身体、此邸《ここ》で生れた身のふしよう。旦那に愛想尽かされては、行くべき処のない身の上。生きてお邪魔をしやうより、我から死んで見せましたらば。せめて一度や、半分の、回向位はして貰やふと、はかない事を、空頼み。明日ともいはず、たつた今、私は死んで見せるぞや。私が死んだその後では、誰に遠慮が何要らふ。今宵からでも改めて、私の跡へ直つてたも。さすれば先祖もお喜び、世間もお前を誉めるであろ。もしも情けの道知らずが、お前と旦那を譏つたならば、私の頼みといへばよい。その代はりには夢にでも、思ひ出した時あらば、無縁の仏と思ふてなり、香華だけは手向けてや』さらばとばかり立上る。あまりの事に、威しぞと、知つても、さすが転動して。まあ何事と縋《すが》り付き『それは何を仰しやりまする。それほどまでのお腹立ち、この期に及んで、私も、未熟な言ひ訳致しませぬ。さあさあ私を、どうなりと、御存分にあそばしませ』『ほほほ、今更それは遅いぞえ。何のお前は大事な身体。私こそは要らぬもの。旦那のお心変
前へ
次へ
全78ページ中21ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
清水 紫琴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング