の御祝儀《ごしゅうぎ》としてでございましょうか、美しい島原模様に染め上げた、絞縮緬《しぼりちりめん》の振袖と、絵羽《えば》模様の長襦袢、それに、絞塩瀬《しぼりしおせ》の丸帯から、帯じめ、草履にいたるまで、すっかり揃えて下さったのでございました。――かように申しますれば、どれほど私が喜んで御隠居さまの、お供をいたしましたことか、お分りでございましょう。

 旅だちの日が参りますと、私は、頭の先から足の先まで、御隠居さまから贈っていただいた品物で装いまして、家を出たのでございます。ところが、御隠居さまは、家を離れるとすぐに、こんな事を申されたのでございます。
「旅をいたしている間、私がお師匠、とお呼びするのも、何んだか人の気を引き易くて、変でございますし、私も、御隠居さまと呼ばれますと、何だか改まりまして、保養をする気がいたしませぬ。でこういたしましょう。私は、あなたを、娘か何かの様に、お千代と呼ぶことにいたしましょう。師匠は、私を――お母さん、では、余り芝居がかる様でございますから、伯母さんと言って下さいませ。これでは不自然でなく、いいでございましょう」
 と、かように申されたのでござい
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