両面競牡丹
酒井嘉七

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)常磐津《ときわず》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)三ヶ月|臥《ふせ》った

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#歌記号、1−3−28]
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  奈良坂やさゆり姫百合にりん咲き
             ――常磐津《ときわず》『両面月姿絵《ふたおもてつきのすがたえ》』

     一

 港の街とは申しますものの、あの辺りは、昔から代々うち続いた旧家《きゅうか》が軒をならべた、静かな一角でございまして、ご商売屋さんと申しますれば、三河屋《みかわや》さんとか、駒屋《こまや》さん、さては、井筒屋《いづつや》さんというような、表看板はごく、ひっそりと、格子戸の奥で商売《あきない》をされている様なお宅ばかり――それも、ご商売と申すのは、看板だけ、多くは、家代々からうけついだ、財産や家宅をもって、のんびりと気楽にお暮しになっている方々が住んでいられる一角でございました。私の家は、そ
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