の松島三郎治師匠。その右と左には、各々、新三郎さま、松島治郎二さま、と申しますように、お弟子さま方が、ずらりといならんでいらっしゃるのでございます。下の段には、今も申しました、お囃子の御連中、ふえ、小つづみ、大つづみ、太鼓というように、何れも、羽二重の黒紋付、それに、桜の花びらを散りばめた、目ざむるばかしの上下をつけて、唄のお方は、唄本を前に、三味線の師匠連中は、手に三味線と撥《ばち》をもち、もう、すっかり用意されているのでございます。
 私はこうした、桜ずくめの、絢爛たる舞台を前に、ただもう、呆然といたしていたのでございます。舞台の上には張子の鐘が、思いなしか、不気味に覗いております。舞台の上手と下手は、大坊主、小坊主連中が、お行儀よく並んでいらっしゃいました。

        |○|[#「|○|」は縦中横]

 場内は、水をうったように静まりかえり、時々、静寂の中を、ご見物衆の、せきばらいの一つ二つが、さながら、森の中でいたしますように、凄いまでの反響を、私たちの耳にこだまするのでございます。やがて、立三味線のかけ声がかかりました。観衆の、じっとこらしている息の中を、長唄が、
 
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