るように、連らなっている山の峰――二重、三重。舞台下手には、大きな桜の木、これの花にもなぞらえてあるのでございましょうか、舞台正面の天井からは枝垂れ桜の、花のすだれが、舞台上手から下手まで、ずっと春めかしく、舞台をはなやかに浮きたたせているのでございます。このたれ下った花すだれに、上三分はさえぎられて見えないのでございますが、あの、鐘にうらみがと唄いまする、張子《はりこ》の鐘がつり下げられているのでございます。間口十五間の、この大舞台で見ますときは、さほど大きくも感じませんが、大の男、三、四人は立ったままで、すっぽりと、かむさるほどはございましょう。この鐘の龍頭に、紅白だんだらの綱が付けてございまして、その端は、しっとりと、舞台に垂れ下り、さきほども申しました、桜の木の幹に結いつけてあるのでございます。
この舞台の正面――桜の山の書割りを背にいたしまして、もえ立ったような、紅い毛氈《もうせん》を敷きつめた、雛段《ひなだん》がございます。この上に、長唄、三味線、そして、お囃子連中――と居ならんでいらっしゃるのでございます。つまり、中央の向って右に、三味線の杵屋新次師匠、左側に、たて唄
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