京鹿子娘道成寺
酒井嘉七

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)絢爛《けんらん》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)※[#歌記号、1−3−28]|真如《しんにょ》の

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「火+主」、第3水準1−87−40]
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        序

 筆者が、最近、入手した古書に、「娘道成寺殺人事件」なるものがある。
 記された事件の内容は、絢爛《けんらん》たる歌舞伎の舞台に、『京鹿子娘道成寺』の所作事を演じつつある名代役者が、蛇体に変じるため、造りものの鐘にはいったまま、無人の内部で、何者かのために殺害され、第一人称にて記された人物が、情況、及び物的証拠によって、犯人を推理する――というのである。

 記述の方法は、うら若き、長唄の稽古人なる娘の叙述せる形式を用いているが、その口述的な説話体は、簡明な近代文章に慣らされた自分達には、あまりにも冗長に過ぎる感じを抱かしめる。

 書の体裁は、五六十枚の美濃紙を半折し
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