一のお弟子さまの新三郎さまのお部屋が並んでいたのでございます。それがために、楽屋口から、はいった者が無くとも、この方々のお部屋の窓から、誰か忍び入ったのではあるまいか、とお上の方々も、お考えになったのでございますが、もし、そうとすれば、梯子のようなものでも、使用いたしませねば、絶対に不可能でございますし、そうした物を使わずに、窓のそばに近よることが出来たといたしましても、杵屋新三郎さまが陳述の節に申されましたように、窓には、鉄の棒がはめてありますので、とても、頭さえも、はいらないのでございます。
 こんな事情でございますので、もし、誰かが、あの撥を新三郎さまのお部屋から持ち出したとすれば、それは、一座に関係のある、内部の方に相違ございませぬ――決して、外から這入ったものの仕業ではございませぬ。しかし、それにいたしましても、造りものの鐘で、すっぽりと、覆われている、岩井半四郎さまを、どうして傷つけたのでございましょう。楽屋番の、この親爺には、たとえ切支丹伴天連《きりしたんばてれん》の法をわきまえている毛唐人にも、出来そうな事には思えませぬ」

        |○|[#「|○|」は縦中横
前へ 次へ
全54ページ中45ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
酒井 嘉七 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング